2002年にアメリカで2人の少女が 「自分たちが肥満になったのはハンバーガーのせい」とマクドナルドを訴えた。しかし裁判所は「肥満の原因は食べ過ぎた本人の責任」と訴えを棄却。マクドナルドのスポークスマンは「我が社の商品は安全でヘルシー。彼女達の肥満とは無関係」と宣言。「少女とマクドナルド、正しいのはどっち!?」。「スーパーサイズ・ミー」は1ヶ月間マクドナルド商品だけを食べるという、スパーロック監督が自らを被験体とした実験ドキュメンタリーである。
「スーパーサイズ」とはアメリカのマクドナルドにある超特大サイズのことで、店側はお得感をウリに積極的に勧める。日本のLサイズの3倍はあろうかと思われる分量である。コーラなんて1リットル以上あるバケツ状態なので、車のドリンクホルダーに収まらないのだ。恐ろしいサイズである。この時点でもうヘルシーでも何でもない気がするのだが。
「1日3食マクドナルド生活」を始めた監督だが、3日目にして「胃の調子が悪い」と訴える。栄養士からは早速カロリー過多の注意を受ける。1日平均で5,000キロカロリーも摂取しているというのだ(20~30代男性の理想摂取量は2,500キロカロリー)。朝から晩まで油まみれの物をバケツコーラで流し込んでりゃそうなるだろう。日が経つにつれ、彼は頭痛や倦怠感、思考力の低下に見舞われる。そして食べたらまたすぐ食べたくなる一種の中毒的な症状が起こるようになる。
実験中、定期的に医師や専門家のチェックを受けるのだが、体重や中性脂肪、コレステロール値などあらゆる数値が短期間に増加したため、一同がこの食生活の危険性を指摘し、実験3週間目にとうとうドクターストップがかかってしまう。それでも彼は目標の30日目までマクドナルド食を敢行する。結果、体重は10キロ増、アル中のような肝臓を抱えた立派な不健康体になってしまった。しかし元々スリムで食生活もヘルシー志向の彼だからこそ、この程度の症状で済んだと言えるのかも知れない。ちなみに元の体に戻るのに約半年を要したという。
この映画で監督は実験結果を示しただけであり、消費する者と提供する者、どちらが悪いという結論を出したわけではない。太りたくないなら食べなければいいだけの話である。「安全でヘルシー」という会社の言い分を鵜呑みにし、カロリーや成分、栄養面や体への影響を全く考えず摂取し続ける消費者側にも問題はあると思うのだが、それにしてもまるで子供の頃からファストフード漬けにさせるかのような販売戦略には末恐ろしさを感じる。 テレビや雑誌でピエロのドナルドにファストフードの魅力を子供の頃から植え付けられ、ゆくゆくは「早い・安い・旨い・ボリューム」のスーパーサイズを購入する大人になってしまう。映画では主にマクドナルドを取り上げているが、現在の食品・飲料業界全てにあてはまるのではないだろうか。
しかしマクドナルドはこの映画公開後にスーパーサイズの販売を中止した。世間では食生活を見直す動きも出てきたという。監督としては体を壊した甲斐があったというところか。
この映画より深刻度が高いのが、ノンフィクションノベル「太りゆく人類 ~肥満遺伝子と過食文化~」である。今や命に関わる病気となってしまった肥満とその背景を鋭く描写している。食品会社に踊らされ、肥満となってしまった人々は次にダイエット製品や痩身法に金を費やしていく。高価なサプリメントを何種類も服用し、高い会費を払ってスポーツクラブに通う。一時的に痩せたのでまた食べるとすぐリバウンド、そして再びダイエットの繰り返しである。企業のマーケティング戦略に散々翻弄され、薬の副作用で体を壊した挙げ句、最終的に辿り着くのは命を落とす事もあるという胃バイパス(胃を小さくする)手術である。しかしそんな危険な手術をしてもなお、元の体重に戻ってしまう者も多いのである。
何故人々はこの悪循環に、そして企業を儲けさせているだけという事実に気付かないのか。それとも気付いていながらワラにもすがる思いであらゆる減量の可能性にしがみつくのか。企業側の人間はファストフードを食べず、自社製品であっても副作用を起こすような危険な薬は摂取せず、常に安全圏にいながら肥満者達を見下ろしているような気がしてならない。
ここ数年、日本でも肥満が問題になっているが、アメリカほどひどくはないと思われる。若者がコンビニおにぎりとペットボトルのお茶を購入しているうちはまだ救いがあるのかもしれない。日本食万歳である。
映画の中で、監督がある学校のカフェテリアに取材に行ったのだが、そのランチメニューを見て私は仰天した。ビュッフェスタイルで子供達が好きに選ぶ事ができるのだが、ハンバーガーにピザ、チキン、ポテト、ソーダにレモネード、スナック、チョコレートにキャンディーバーと、ジャンクフードの嵐なのである。子供の健康や成長を考えたメニューとは到底思えない。「子供達が選択できる自由を」というが、何かがズレている気がする。その上体育の授業は週1時間程度というのだから肥満児になれといわんばかりである。子供達の将来の姿が目に浮かぶようだ。
映画も本も、日本人の食生活の範疇を超えていた。普通の人々が相撲取りより太ってるんだから、かなり強烈である。偏食や運動不足の生活を見直すのにいい教訓になるのではないだろうか。
私もジャンクフードは好きだが、やはり小錦や曙にはなりたくないので摂生を心掛けるようにしよう…。
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